シクレスト

今年の5月26日に発売された、本邦9番目の非定型抗精神病薬であるシクレスト(一般名:アセナピン)。

これは使える抗精神病薬とのイメージを持った。

Aさん、数年前に発病したと思われるが治療歴なし。夜になると大声で怒鳴るため、しばしば警察が介入していた。深夜に警察により搬送され、ついに入院となった。シクレスト10mgを開始し数日後に20mg/日に増量。易刺激的で入院は不当だと訴え続けていたが、5~6週間経過すると、別人のように穏やかな方に変身した。著明改善。

Bさん、薬が嫌で自らの希望で持効性注射剤を使っていたが、それも拒否するようになり1年経過。予想通り悪化し救急車で搬送され入院となったが、入院時、思考が全くまとまらず、不可解なことを口にしたり、同じ言葉を繰り返したり、スムーズに応答できないなど、ほとんどまともな会話ができなかった。シクレスト10mgを開始し20mg/日まで増量。しだいに言動が整ってきた。途中、気分の高揚や夜間不眠が見られたが、シクレストを夕方1回にまとめたことにより、日中の眠気や夜間の不眠は改善。眠剤の服用も不要になった。著明改善。ジプレキサと違い、食欲の出過ぎや口渇が起きないと言う。

Cさん、ジプレキサ20mgがきちんと飲めなくなり、大雨による避難勧告がきっかけで不眠となり急激に悪化。「宇宙人とテレパシー交信している」「殺される前に死ぬ」と言い、強い希死念慮から自殺企図に至り、救急搬送され入院。シクレスト10mg/日で数日で劇的に改善。「舌がしびれるので効いている」「これはおもしろい薬だ」とコメントしている。

Dさん、リスパダール3mgで維持していたがこの2,3年、低空飛行。不安になりやすく、一人で外に出られなかった。悪化し再入院となった。糖尿病を合併している。入院後も直立不動で無反応だったり、自分自身を叩き続けたり、汗を流しながら壁を叩き続け全く疎通がとれない。リスパダール増量で様子を見ていたが、途中からシクレストに切り替えた。10mgで開始し20mg/日に増量した。2~3週ほどで言動がまとまり疎通良好となる。ずいぶん明るくなり、昔の本人に戻った感じ。著明改善。リスパダールと違い、眼球挙上が起きないのが良いと言う。

最初の数例でシクレストは使える薬との印象を強く持った。海外のメタ解析の結果などからは有効性があまり期待できないイメージがあったが、そんなことはない。統合失調症治療において十分戦力になると思われる。ジプレキサより副作用は少なそうである。これまで糖尿病を合併しているだけで治療の幅が狭くなっていたが、糖尿病禁忌でないので治療がしやすくなった。問題点として舌下投与であり飲み込むと効かないので、服用方法を患者さんが理解できる必要がある。ここで薬剤師の出番である。正しい服用方法を最初に十分指導してもらわないといけない。その結果、患者さんとスタッフの良好な関係性構築につながることが期待される。正しい服用法を身につけるには、入院中に開始することが望ましいと考える。また、複数の薬剤が処方されていると服薬が煩雑になる。逆に、不要な薬剤をできるだけカットする機会になればいいと思う。